槁ヶ丘学園に通う平凡な学生である主人公、嵯峨 智秋(さが ちあき)は小さな引っ越しを余儀なくされた。

特に大きな事情ではなく、単純に家の改築工事の為である。
その引っ越し先もそんなに離れているわけではなく、転校する事もなかった。
―――ささやかな影響はあったが。

引っ越し先が山一つ越えた先にあり、都内近郊とは思えないほど拓けていない土地だったのだ。

通学経路も変わり、新たな足となった単線電車だが、本数が極端に少なく、
不測の事態でしばしば停車し、時にはそのまま運休となる事もあった。

そして、その日、乗っていた電車が停まっても焦る者は誰もいない。
もちろん智秋も例外ではなく、この空いた時間をどうするかぼんやりと考えていた。

その時、視界の隅に歩いている見慣れた制服の女学生の姿が映る。
けれど、ただそれだけなら、目を惹く事はなかった。

彼女、日向 つばめ(ひむかい つばめ)が歩いていたのは、車内の通路ではなく、

―――線路の上、だった。

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