佐久間竜樹は、地域で小さな診療所を営む仁と久枝の間に生まれた一人息子だ。
診療所は常に患者でごった返していた。だが経営は非常に苦しかった。
それは患者のほとんどが医療費の持ち合わせがなかったり、
住む所も持たないような患者ばかりだったからだ。
しかし仁は、医道は奉仕という精神の下、
それらの患者に対して無償あるいは無償に近い診療を続け、
地域ではいつしか現代の赤髭とも呼ばれるようになっていた。 |
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月日は流れた。診療所はささやかな病院に立て替えられた。
病院は相変わらずの忙しさで、夫婦だけの手では回らなくなり数名の若手スタッフを雇った。
だが、これが不幸の始まりだった。
時代は確実に変わっていたのだ。若手スタッフは医道や奉仕等どうでもよかった。
院長である仁とスタッフは、運営方法をめぐりことごとく対立するようになっていた。
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その頃、医師免許を取得した竜樹は、両親の志と病院を継ぐために医療の修行を積み、
医道を全うすべく辺境の地で医療活動に従事した生活をしていた。
そんなある日、古びた診療所に警察から電話が掛かってきた。
内容は父と母が焼身自殺したとのことだった。
急ぎ自宅に着くと葬儀が執り行われていた。そこは悲しみにくれる患者たちでいっぱいだった。
葬儀は院長代理の肩書きを持った卑弥子が葬儀委員長として仕切っていた。
挨拶もそこそこに棺に納められた炭化した遺体に別れを告げる竜樹。両親は火葬場で荼毘に付された。
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葬儀が終わって間もなく、竜樹は卑弥子と婦長である美弥子に呼び出された。
院長室には主だった看護婦が冷たい目で竜樹を見ている。
そこで竜樹は、卑弥子からスタッフに給料が払えず死をもって詫びるという趣旨の遺書を受け取る。
それを見た竜樹は卑弥子を睨みつけた。
そこには病院はスタッフ代表の卑弥子に譲ると書かれていたからだ。
遺書に納得できない竜樹、両親はお前たちと確執があった。殺したのはお前たちだと詰め寄る。
しかし、証拠がない、言いがかりだと散々に言われた挙句、
脅迫したと警察を呼ばれ連行されてしまう。
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留置場に放り込まれ何もかもがおかしいと感じる竜樹。しかしそれを示す証拠など何もない。
ふと見ると雑巾のような姿をして異臭を放つ男が横たわっていた。
ひと目で病に侵されており重症であるのが見て取れた。
竜樹はこの男から意外な話を聞き、やはり病院は女医の九鬼一派に乗っ取られ、
そして両親も葬りさられたと確信する。
やがて釈放された竜樹は、復讐を心に誓いしばらく町を離れることにした。
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1年後九鬼クリニックと名前を変えた病院に、警察からボロをまとったひとりの男が運び込まれる。
一切口を聞かずに指紋もなく、顔にもひどいヤケドで負っていて、名前も一切分からない。
この男こそ復讐の鬼と化した竜樹だった。
竜樹から全てを奪い取った女たちに、いよいよ竜樹の地獄の怒りが牙をむく時がやってきた。 |
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